第2 「2 判断の枠組みの説明」について
1 判断の枠組みとは
(1)起案のガイドの4パターン
起案のガイドによれば,大きく分けて4パターンである。
code:4パターン
ア 処分証書(重要な報告文書を含む。)があり,成立に争いがない場合
イ 処分証書があり,成立に争いがある場合
ウ 処分証書以外の直接証拠がある場合
エ 直接証拠がない場合
(2)二段の推定で5パターン
そして,二段の推定との関係で,イは,ふたつに分かれる。
code:イ 処分証書があり,成立に争いがある場合
(ア)押印の真正に争いがない場合(二段目が争点)
(イ)押印の真正に争いがある場合(一段目が争点)
したがって,次の5パターンになる。
code:5パターン
ア 処分証書(重要な報告文書を含む。)があり,成立に争いがない場合
イ 処分証書があり,成立に争いがある場合
(ア)押印の真正に争いがない場合(二段目が争点)
(イ)押印の真正に争いがある場合(一段目が争点)
ウ 処分証書以外の直接証拠がある場合
エ 直接証拠がない場合
(3)重要な3パターン
そのうち,起案でよく出題されるのは,はじめの3パターンである。
code:よく出る3パターン
ア 処分証書(重要な報告文書を含む。)があり,成立に争いがない場合
イ 処分証書があり,成立に争いがある場合
(ア)押印の真正に争いがない場合(二段目が争点)
(イ)押印の真正に争いがある場合(一段目が争点)
※これ以外が出題されないわけではない。
(4)注意点
判断の枠組みは,よほどのことがない限り,起案のガイドの4パターンのどれかにはめ込むこと。
例えば,保証否認の事案で,保証契約書があり,実印によって顕出された印影がある場合は,保証契約書とは別に,直接の意思確認の事実が主張されていたとしても,処分証書があり,成立に争いがある場合となる。処分証書についてはイで,意思確認はウorエというふうには,しないのがルール。
理論的に間違いだから,ではなくて,そういうルールになっているから。
2 3パターンの典型例
どのようなケースがどのパターンなのかを理解するためには,典型例を覚えておくことが役に立つ。
ア 処分証書があり,成立に争いがない場合
売買契約書が存在するけれど,真実の買主が別にいる場合。(起案2)
ア’ 重要な報告文書があり,成立に争いがない場合
領収書が発行されているけれど,税金対策等のために作成されたものであって,実際にはちっともお金が動いていない場合。
イ 処分証書があり,成立に争いがある場合
(ア)押印の真正に争いがない場合
白紙の契約書に先にサインした場合。
サインする契約書がたくさんありすぎて,いちいちろくに内容を確かめなかった場合。
サインした後で改ざんされた場合。
(イ)押印の真正に争いがある場合
印鑑を盗用された場合。
印鑑を冒用された場合。
3 3パターンの記載事項
(1)処分証書があり,成立に争いがない場合
ア 記載すべき要素
(ア)処分証書の場合
code:要素
ⅰ 特定の書証が処分証書であることの説明
ⅱ 書証の認否について,相手側が争っていない点の指摘
ⅲ 特段の事情が認められない限り,記載どおり認定すべきである点
ⅳ 特段の事情として,相手側が主張している事実の概要の指摘
ⅴ その特段の事情を検討する旨の説明
(イ)重要な報告文書(たいてい領収書)の場合
code:要素
ⅰ’ 特定の書証が重要な報告文書にあたることの説明
・処分証書ではない点
・しかし,重要な報告文書である点
・処分証書と同じような枠組みで検討すればよい点
ⅱ以下は(ア)と同様
イ 記載例
code:記載例
第2 判断の枠組みの説明
1 処分証書の存在
……(設問の事実)については,甲○号証が存在する。甲○号証は,「●●」という題名の書面であるし,書面の内容として,AとBの名前が記載されており,第□条には,……との記載がある。したがって,甲○号証は,この書面によって……(設問の事実)の法律行為が行われた書面と言えるので,処分証書にあたる。
2 被告の認否
そこで,甲○号証についての被告の認否を見ると,被告は,その成立を争っていない。
したがって,特段の事情がない限り,甲○号証記載どおりの事実を認めるべきである。
3 特段の事情の主張
しかしながら,被告は,上記特段の事情として,甲○号証が作成される過程において,……という事実があったと主張する。
4 判断の枠組み
したがって,……(設問の事実)の認定にあたっては,甲○号証が成立するにもかかわらず甲○号証記載どおりの事実が認められないことの特段の事情が存在するかを検討することによって,判断するべきである。
(2)処分証書があり,成立に争いがある場合
ア 押印の真正に争いがない場合(二段目が争点)
(ア)記載すべき要素
code:要素
ⅰ 特定の書証が処分証書にあたることの説明
ⅱ その書証の成立について,相手方が否認していることの指摘
ⅲ 押印の真正は争っていないことの指摘
ⅳ 民訴法228条4項により,成立の真正が推定されることの指摘
この条文の趣旨の指摘
ⅴ 相手方が成立しないと主張する根拠の指摘
ⅵ その根拠を主張して二段目の推定が覆るかを判断することの指摘
(イ)記載例
code:記載例
第2 判断の枠組み
1 処分証書の存在
……(設問の事実)については,甲○号証が存在する。甲○号証は,「●●」という題名の書面であるし,書面の内容として,AとBの名前が記載されており,第□条には,……との記載がある。したがって,甲○号証は,この書面によって……(設問の事実)の法律行為が行われた書面と言えるので,処分証書にあたる。
2 甲○号証に対する被告の認否
(1)甲○号証の成立について,被告は,否認している。
(2)しかしながら,甲○号証の・・・欄に被告が自らの意思に基づいて署名押印したことについては,被告も争っていない。
3 民訴法228条4項の適用
(1)民訴法228条4項は,……と定める。
これは,法定証拠法則を定めたものである。
(2)意思に基づく署名押印を認めているので,その文書全体が真正に成立したと推定される。
ただし,立証責任は転換されず,反証で足りる。
4 被告の主張
被告は,甲○号証につき,……と主張する。
これは,甲○号証に自ら署名はしたが,その内容が意思に基づくものではない,との主張であるから,民訴法228条4項の推定の反証を主張するものである。
5 判断の枠組み
したがって,本件の事実認定にあたっては,被告主張の事実を検討することを通して,被告の反証がなされているかどうかについて判断するべきである。
イ 押印の真正に争いがある場合(一段目が争点)
(ア)記載すべき要素
code:要素
ⅰ 特定の書証が処分証書にあたることの説明
ⅱ その書証の成立について,相手方が否認していることの指摘
ⅲ 押印の真正も争っていることの指摘
ⅳ 書証上の印影が自分の印章により顕出されたことは認めていることの指摘
ⅴ 二段の推定の説明
・一段目 判例 事実上の推定
・二段目 民訴法228条4項 法定証拠法則
ⅵ 二段の推定が働くことの説明
ⅶ 相手方が成立しないと主張する根拠の指摘
ⅷ 意思に基づく押印と言えるかどうかを判断することの指摘
(イ)記載例
code:記載例
第2 判断の枠組み
1 処分証書の存在
……(設問の事実)については,甲○号証が存在する。甲○号証は,「●●」という題名の書面であるし,書面の内容として,AとBの名前が記載されており,第□条には,……との記載がある。したがって,甲○号証は,この書面によって……(設問の事実)の法律行為が行われた書面と言えるので,処分証書にあたる。
2 甲○号証に対する被告の認否
(1)甲○号証の成立について,被告は,否認している。
(2)また,甲○号証……欄には,被告名下の押印が存在するが,この押印についても,自らの意思に基づくことを争っている。
(3)しかし,この印影が,自らの実印により顕出されたものであることは,被告も認める。
3 二段の推定の適用
4 被告の主張
被告は,甲○号証につき,……と主張する。
これは,甲○号証に存在する被告名下の印影は,Aが被告の実印を冒用して押印することによって顕出されたものであるとの主張である。
5 判断の枠組み
したがって,本件の事実認定にあたっては,被告主張の事実を検討することを通して,被告の反証がなされているかどうかについて判断するべきである。